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疲弊した温泉街の人々に再生ビジョンを示す

株式会社元気アップつちゆ

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これまでの観光資源は通用しない――。東日本大震 災から6年。いまだ風評被害に苦しめられる福島で、 再生可能エネルギーによって町おこしをしようとして いる温泉街が土湯温泉町、その中心にあるのが株式 会社元気アップつちゆ(福島県福島市)だ。被災後の 危機のなか、同社はいかに新たなビジネスを推進し てきたのか。代表取締役社長の加藤勝一氏に聞いた。

活気が失われていくなかで温泉街の復興を決意する

福島県福島市の南西部に位置する土湯温泉は、古くから名湯として人々から愛されてきた歴史ある温泉街だ。この温泉街が今、にわかに注目を集めている。その中心にあるのが、2012年に設立された株式会社元気アップつちゆ。代表取締役社長の加藤勝一氏は語る。

「土湯温泉町には歴史ある温泉だけでなく、風光明媚な景観、伝統文化のこけし、美味しい食事など、さまざまな観光資源がありました。しかし、これらだけでは町そのものが消滅してしまう恐れがありました」。2011年3月の東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故により、16軒あった土湯温泉の旅館は建物が倒壊するなどで、5軒が廃業を余儀なくされた。

「当時はまだ厳しい冬の寒さだったにもかかわらず軒並み停電。3日間、電気もガソリンも灯油もない。まさに火の消えた町となり、つらい日々を送りました。エネルギーの重要性を思い知らされたのです」。震災の翌月、土湯温泉は800人の避難者を受け入れた。人口わずか450人の温泉街は、ひとときの賑わいに包まれたという。

「ふだんはめったに聞くことのない、子どもたちのはしゃぐ声が町にこだましたのを覚えています。当時の土湯小学校には10人程度しか子どもがいませんでした。先の見えない当時、彼らの姿を見てホッとしたものです」。

受け入れから4カ月後、彼らが仮設住宅へ移ると、人口の2倍近くいた人々がいっぺんにいなくなった。放射能の風評により、観光客が戻る見通しはまったく立たない。閑散とした街並みを見て、加藤氏は土湯の復興再生を果たそうと決意した。




土湯温泉街の風景



町の再生プランを練り上げ仲間たちを巻き込む

土湯温泉町に生まれた加藤氏は、高校卒業後、実家の石材店に就職。その後、親戚の温泉旅館を継ぐ。1997年、衰退傾向にあった旅館を、温泉を使った福祉施設にすべく建て替え、介護事業に参入していた。震災後、加藤氏が着目したのは地元資源である温泉を使ったバイナリー発電だった。

「原発にはもうこりごりというのが福島の共通認識。そのために必要なのは安心・安全の自然再生可能エネルギーです」。バイナリー発電とは地熱発電の一種で、温泉熱を利用して水よりも低い沸点の液体を媒介させてタービンを回すという発電方式。また、土湯には35カ所もの砂防堰堤がある。この堰堤を使った小水力発電も計画のひとつ。小水力発電とは、堰堤と発電施設との高低差を利用した発電方式だ。これら再生可能エネルギーによる売電事業を行い、さらにバイナリー発電や小水力発電それ自体を土湯の新たな観光資源として打ち出す――。

このプランを実現するべく、加藤氏は旧知の仲間たちである温泉旅館や土産物店の経営者たち、町の人々に呼びかけた。町の再生にはスピードが大事だと加藤氏は言う。観光客が訪れない日々が長くなればなるほど町の人々の気持ちは沈んでいく。「再生プランはほとんど私一人で練り上げ、その上で仲間に持ちかけました。みんなで集まってそれから協議しましょう、というのでは時間がかかりすぎるからです。何かやらなければという思いはみんな同じ。私の提案には大きな反対もなく、コンセンサスを得るのに時間はかかりませんでした」。

被災からわずか7カ月後の10月、仲間29人とともに「土湯温泉町復興再生協議会」を発足。さらに1年後の12年10月、地元の二つの団体が出資し「株式会社元気アップつちゆ」を設立、事業をスタートさせた(※注)。加藤氏のリーダーシップが、気落ちしていた町の人々の心に火をつけたのだ。

バイナリー発電施設
地域資源である温泉を使ったバイナリー発電。
2015年11月から稼働、初年度売り上げは
約9600万円




豊富な水資源を活かした
小水力発電。2015年4
月から稼働、初年度売り
上げは約1500万円


(※注)2015年に、発電事業を主目的とした特別目的会社(SPC)として「つちゆ温泉エナジー株式会社」(バイナリー発電事業)、「つちゆ清流エナジー株式会社」(小水力発電事業)を設立。2社ともに「元気アップつちゆ」の100%子会社。

新たな観光資源をつくり温泉街を再生させる

バイナリーと小水力の発電所建設における初期投資は10億円以上にのぼり、同社にとって大きな課題であったが、ここでも加藤氏のリーダーシップが発揮された。何度も行政機関などに出向き、土湯温泉再生への思いやビジョンを熱く語ることで、彼らを巻き込み〝協力者?へと変えていったのだ。

その結果、再生可能エネルギー発電施設に交付される「福島県市民交流型再生可能エネルギー促進導入補助金」などを利用したほか、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)による債務保証を取り付けることに成功した。現在、バイナリー発電は400キロワットを発電し、全量を東北電力に売電、初年度の売り上げは年間9600万となった。小水力発電は140キロワットの発電が可能だが、渇水が続き現在のところ55%程度の発電にとどまり、年間1500万円の売り上げ。これらの収益は土湯温泉の復興資金に充てられている。

土湯温泉の震災前の観光客はおよそ23万人。震災直後は7万人にまで落ち込んだ。原発事故の影響が尾を引く福島全体の傾向といえるが、土湯温泉は昨年18万人にまで回復した。その一助となっているのが、同社の発電施設だ。土湯には全国各地から温泉街に誕生した発電施設をひと目見ようと視察者が後を絶たない。土湯同様、衰退する温泉街の再生を狙う自治体は、震災・原発事故から着実に復興に向かっている土湯温泉をモデルにしようとしているのだ。

エネルギー事業が注目される同社だが、それ以外にも地元産のこんにゃくを使った『こんにゃく工房金蒟館』の運営や土湯の伝統工芸であるこけしがデザインされた土湯サイダーの販売などを行っており、今後は発電後の温泉水を使ったエビ養殖を始めるという。

土湯サイダー
こけし発祥の地として有名な土湯温泉ならではの
土湯こけしがデザインされた土湯温泉サイダー







金蒟館(きんこんかん)
地元産の蒟蒻芋を活かした加工食品を
販売する金蒟館





エビ養殖場
発電後の温泉水を使ったエビ養殖(2017年3月開始)。
新たな観光資源として期待されている




「ゆくゆくは従業員を増やし、土湯温泉町に定住する人々を獲得することで、少子高齢化対策にも寄与していきたい」。ふるさとが消滅するかもしれないという危機にあって将来への展望を語り、町の人々を巻き込み、新たな事業を推進してきた加藤氏――。土湯の挑戦はまだ始まったばかりだ。


株式会社元気アップつちゆ
代表取締役社長 加藤勝一 氏










CompanyProfile
株式会社元気アップつちゆ
設 立 2012年10月
資本金 2000万円
売上高 1億5000万円
従業員数 6人
福島県福島市土湯温泉町字下ノ町17
024-594-5037
http://www.genkiuptcy.jp/index.html

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