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サービス・IT × 強い組織づくり 特集「ピンチをチャンスに変える」
ワクワクできる会社を 目指して再出発する

株式会社ナプロアース

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会社があった双葉町は避難区域に指定され、従業員 のほとんどが県外へ離散を余儀なくされた。廃 業の危機に追い込まれた株式会社ナプロアースを復 活に導いた池本篤社長。背景には被災をきっかけと した池本社長自身の意識改革と、新たなスタイルの マネジメントによる組織風土の変革があった。

廃業危機のピンチから事業再開を果たす

「車は鯨のようなもの。捨てるところはほとんどないんです」。こう語るのは、自動車リサイクル業を営むナプロアース(福島県伊達市)の代表取締役、池本篤氏だ。同社は1996年の設立(旧社名「有限会社ナプロフクシマ」)。中古車販売会社などから廃車を買い取り、部品パーツを販売していたが、2007年に「廃車ドットコム」事業を立ち上げたことで上昇気流に乗った。

当時は珍しかった個人からの廃車買い取りが功を奏し、震災前には年商8億円に迫る勢いで成長を遂げていた。池本氏自身も自動車リサイクル業界の〝革命児?と称され、さらなる事業成長が期待されていた矢先に起こったのが、2011年3月11日の東日本大震災だった。当時、本社工場があったのは双葉町。浪江町にあった工場とともに津波の被害に遭い、いずれも原発の避難区域に指定されて閉鎖せざるを得なくなった。

幸い社員たちに人的被害はなかったものの、その後、ほぼ全員が県外へと避難し、池本氏も家族とともに仙台へと引越しを余儀なくされた。 顧客データは持ち出せたが、部品も資材もすべて工場に残されたまま。被曝の危険性があるため、取りに戻ることもできない。状況は絶望的だった。精神的にも堪えた。

「世界から色が消えたのです。一時期ですが、ものが白黒でしか見えなくなりました。家でじっとしているとおかしくなりそうで、地域のボランティア活動を手伝ったりして気を紛らわしていました」。そんななか、創業期から池本氏を支えてくれた専務と役員たちが池本氏のもとに訪れた。「みんなから『社長がやるならついていきます』と言われ、背中を押されました。どうせ全てを失ったようなものだから、徹底的にやってみようと決意したのです」。

40数人いた社員はわずか4人。廃車もそれを取り扱える人材もいない。まずは、そうした人材や廃車を招き入れるための「働ける場所」をつくることが先決だった。新社屋の候補地を探し回り、見つけ出したのが伊達郡梁川の工業団地だった。福島市からほど近く、沿岸部からも離れているという好立地だ。国の融資制度などを利用し、同年9月、梁川工業団地内に本社・工場を新設。応募してくる人は、車に関する知識や技術も問わず、次々に採用し人員体制を揃えた。


東日本大震災時の津波による被害を受けた同社の倉庫
同地域は避難区域に指定され、現在も、このままの状
態で放置されている


ほとんど新人の組織で被災前の売り上げを超える

被災からわずか6カ月後、なんとか事業再開を行える〝形?を整えることができた同社だったが、単に形を整えただけでは終わらなかった。結果から言えば、翌2012年度の決算では、震災前の売り上げを超える10億円を計上。被災により自動車を手放す人が多く、行政からの廃車処理の依頼が増加したといった要因もあり、それが一時的な追い風になったのは事実だが、それを差し引いても見事な復活劇と言えるだろう。







その後、若干、売り上げを落としたものの、昨年は約9億円と、被災以前よりも高い水準を維持している。とはいえ、自動車のリサイクル業の実務には、どの部品が使えるのか、車種はどんなものがあるのかなど覚えなければならないことが多く、通常5年から10年の経験が必要だと言われる。新規に採用した経験の浅い社員たちで、従前のような成果を上げるのは容易ではない。


自動車のリサイクル業の実務は自動車整備工同様、
高い技術と知識が必要となる。経験の浅い社員たちが
日々、勉強しながら技術を習得している




「あのような震災を経験すると『もしかしたら明日、この人とはもう会えなくなるかもしれない』といった思いがよぎることがあります。なぜ、新人たちだけで成果を上げられたのかというと、あの震災を機に、みんながワクワクできる会社にしようと、私自身が過去のマネジメントのあり方を反省し、改めたことが大きかったと思います」。

以前の池本氏はスパルタと言ってもいいほどの体育会系のスタイルで、社員に接していたという。利益を上げたい、事業を大きくしたいという一心で、社員を怒鳴り散らすことも多かった。当時はそれが社員たちのためと思っていたからだが、それが、風通しの悪さや、離職率の高さの一因となっていた。トップダウンで指示・命令を下し、それを遂行できない時には厳しく叱責するという自分と社員との関係性に、誰よりも池本氏自身がワクワクできなくなっていたのだ。

ワクワクできる会社へとマネジメントを変える

現在、同社では企画業務や会議資料作成も社員に任せるようになった。以前は池本氏が一人で行っていた業務だ。「時間はかかりますが、そうした機会を与えないとみんなが成長しないからです」(池本氏)。グループウェア導入により、経営数値などの情報共有化を図り、現場の誰もが自らの問題意識を発信することもできるようにしている。

象徴的なのは、社員全員を、お互い「さん」付けで呼び合う習慣を徹底したことだ。「当初は言いなれず躊躇しましたが、『さん』付けの方が、対等な関係性となり、今ではその方が居心地がよくなりました」(池本氏)。さらには会社の歴史や理念をまとめたDVDや漫画を作成。これらを観たり読んだりしてもらうことで、企業理念が自然に浸透するように工夫するなど、理念教育にも力を入れている。

伊達郡梁川での再出発以降に入社してきた若い社員たちは、
一様に勉強意欲が高い。さまざまな勉強会が開かれており、
「業務に直接関係ないがファイナンシャルプランナーの
資格を取得している社員も4名いる」(池本社長)という


これらさまざまな取り組みの結果、ここ2~3年の新規採用者の離職はほとんどないという。「今の社員はかつての社員に技術面では劣るかもしれませんが、全体を見渡せる視点を持っています。成長スピードもずっと速い。なにより、社員がやりがいを持って仕事に向かっています」と池本氏は胸を張る。単なる利益の追求ではなく、他者からの感謝に喜びを見出せる企業風土が根付きつつあるのだ。「社員から『会社をつくってくれてありがとう』と感謝されたことがあります。あのときは本当にうれしかった」。震災を機に生まれ変わったナプロアース。こうした感謝の気持ちや喜びこそが、同社の原動力となっている。




株式会社ナプロアース
代表取締役社長 池本篤 氏









CompanyProfile
株式会社ナプロアース
福島県伊達市梁川町
やながわ工業団地63-1
T E L024-573-8091
資本金1500万円
売上高9億円
従業員数 38人
http://www.naproearth.co.jp/

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